電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

早期退職で生まれる不信感と疑心暗鬼

「早期退職」「希望退職」など呼び方は違えど、詰まるところは会社による従業員の解雇です。日本では正社員が強力すぎるほど守られており、会社側の事情による人員削減のための解雇がそう簡単にできないため、あくまでも従業員の意志による退職という形を取ります。

三共生興という会社があります。老舗の繊維商社で一部上場、「DAKS」「LEONARD」といった婦人服のブランドを手がけているので、知っている人も多いと思いますが、6月末に子会社2社を含めて社員の約1割に当たる30人の早期退職者の募集を発表しました。

www.nikkei.com

実は私の学生時代の先輩がいます。中途で入社してもう10年以上、とても優秀な人なのでそれなりのポジションにいますが、退職するそうです。ただ、今回の早期退職者の募集とは関係なく、転職活動をしていて、たまたま内定がこの時期に重なったそうです。

先輩はこれ幸いと早期退職に応募しようとしたところ引き止められたそうです。早期退職者や希望退職者を募集すると真っ先に手を挙げるのは辞めてほしくない人というのはもはやお約束ですが、先輩は辞めてほしくない人の筆頭クラスだったようで。

しかし、先輩は早期退職者の募集がなくとも辞めるつもりでした。会社は早期退職への応募を認めないとのことなので、特別加算金はもらわず、通常の自己都合退職でもよいから辞めさせてもらうと言ったところ、なかなかの修羅場になったようです。

早期退職者や希望退職者の募集、リストラは客観的に見て最も避けるべきことではないかと思います。経営が厳しい、特にいまの時期は新型コロナウイルス感染症のせいで先行き不透明の中、何とかして会社を守らなければならず、それには人件費を削減するのが手っ取り早いこともよく分かります。

ただ、1度でもそれをやってしまうと、社員の中で会社に対する不信感が生まれます。そして、それはもう2度と消えることはありません。自分は今回、乗り切れたとしても、またいつ切られるか分からない、そうなる前に転職しよう、と考える社員が増えても仕方ありません。また、社員の会社に対する不信感であればまだしも、社員同士が疑心暗鬼に陥ってしまうことが厄介です。

「あの人は仕事ができないのに気に入られているから残れたんだって」
「早期退職とは名ばかりで追い出し部屋で詰められているらしい」
「次はあの部署がターゲットだそうだ」
「子会社は売却されるみたい」

など、こういった噂が流れてしまうと、もう誰も信じられなくなり、早期退職者が会社を去って落ち着いてからも、社内はギクシャクしつづけます。自分を守れるのは自分のみ、信用したら自分が辞める羽目になるかもしれない、自分のことだけ考えなきゃ…となってしまうのも当然です。

早期退職や希望退職に真っ先に手を挙げるのは会社も辞めてほしくない人、つまり優秀な人、言い換えれば他社でもやっていける人であり、行き先も決まっている人です。一方、そうでない人はそこにしがみつくしかないため、絶対に手を挙げません。

そういう人ばかりが残ったらどうなるのか。じわじわと右肩下がりに落ちていくだけです。目先の早期退職で浮いた人件費もあっという間に食い潰し、またすぐ第2弾の早期退職を実施するはずです。それすらできなくなったらレナウンと同じようになります。

ここで人員を削減しないと会社が立ち行かなくなって全社員に迷惑がかかるとはよく言われますが、仮に私が社員であればいっそのこと倒産してもらったほうがよいと思います。倒産によって全員が解雇されるのであれば、少なくともこれまで一緒に働いてきた仲間を疑ったり妬んだりするという悲しい事態にはなりませんから。