電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

被差別部落出身者である私

白人警官が黒人を過剰に拘束した上で死亡させたことに端を発する人種差別問題が米国で思っていた以上に発展しています。新たに警官による黒人の射殺事件も発生したようで、経緯はどうあれ火に油を注ぐことになりそうです。

前職の上司はムスリムのトルコ人、現職の同僚には黒人、中東や東南アジアの出身者などがいますし、米国本社や各国の支社とのオンラインミーティングでは、画面の向こうに普通に黒人がいます。外資系で働いているせいもあって、私は人種に対する違和感や抵抗がありません。

今回の米国の問題について「日本には差別がない」と発言したタレントがいました。タレントの発言にいちいち目くじらを立てるのも大人げないのですが、あまりにも無知すぎると愕然としました。日本にも差別があります。在日韓国・朝鮮人に対するようなものではなく、日本人による日本人に対する差別である部落差別です。

「いまだにそんな差別があるの?」と思う人も多いでしょうし、そもそもいまの若者は部落差別という言葉自体を聞いたことがないかもしれませんが、たまに新聞や雑誌で報じられますし、ネットで調べると地名などがすぐ出てきます。

被差別部落は日本全国にあります。もちろん横浜市内にもあり、私の親父の実家は被差別部落です。私の本籍はもう変わっていますが、さかのぼれば私も被差別部落出身者ということになります。

このことを知ったのは30歳を過ぎてからでした。新聞記者時代に横浜の郷土史家を取材した際、私の親父の実家の地区が被差別部落であることを知りました。言い換えれば、それまで何の差別も受けたことがなかったということでもあります。

しかし、それ以降、日本全国の被差別部落問題を調べてみると、いまだに根強く残っていることが分かりました。平成から令和に変わった2020年のいまでも、です。被差別部落出身者だからということで進学や就職、結婚などで差別を受けた事例が少なからずあります。

私の親父も子どものころ、小学校で何となく違和感があったそうです。約60年前ですから、人権に対する意識もまだそれほど高くなかった時代です。先生といっても戦前の価値観ですからたかが知れています。

ただ、私の親父はその後の進学でも就職でも何の差別も受けなかったそうです。私にいたっては30歳を過ぎるまで知らなかったぐらいですから、進学も就職も、日常生活においても何の不都合も感じたことがありません。

被差別部落出身者をなぜ差別するのか?当事者に聞いても明確な答えはなく、あくまでも「何となく…」でしかないはずです。できる限り歴史を調べてみましたが、差別されるような理由はまったく見つかりませんでした。

黒人に対する差別もこれと同じで「何となく…」でしょう。これほど下らないことはありません。それと同時に、人間がいかに弱いものであるかを痛感します。漠然とした印象だけで平気で残酷なことをできるわけですから。

部落差別問題については、正しい知識を教えた上で差別の愚かさを伝える意見と、何も知らなければ差別しようがないのだからそもそも教えなければよいという意見がありますが、私は後者です。悲しいかな、どこが被差別部落か知ってしまったら「何となく…」奇異な目で見てしまうものですから。

人種差別については、私は何の解決策も持ち合わせていません。ただ、人間は漠然とした印象のみで残酷なことが平気でできる弱い存在だということを知っています。これを理解しているかどうかで大きな差があると思っています。

自身の理解の範疇を超えた存在を無意識に拒絶してしまう気持ちは分からないでもありませんが、そこから湧き上がるどす黒い想いに飲み込まれて差別することがどれだけ格好悪いか、考えてみてほしいと思っています。

差別などなくなりますように。