電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

手で触れられるもの

私が前職の出版社を辞めたのは、出版社であるにもかかわらず書籍出版事業をやめることになったからです。「出版社なのに書籍出版事業をやめるなんて自己否定だろう」と思いましたが、1社員は会社の方針に逆らえません。

新たな経営陣はオンラインサービスに移行する方針を示し、確かにそれは正しい選択だと思いました。ただ、書籍という目に見えて手に取れる製品を扱っていたことが大きかったことを見落としていました。

オンラインサービスの営業に何度も同行しましたが、行く先々で「御社のあの本、読みましたよ」「あの本の続編は出ないんですか」と言われました。中には自分が企画から編集・制作まで担当したタイトルもありました。

オンライン上のものは目に見えますが、手に取って触れることはできません。オンラインベースのものはいつでもどこでも見られて場所を取らないなど多くのメリットがありますが、やはり人は手で触れられるものを無意識で求めているのかもしれません。

前職の出版社で刊行した書籍の版権は他社に引き取ってもらいました。ただ、他社もビジネスですので、売れそうもないタイトルは買ってくれず、前職の倉庫に眠ったまま闇に葬られたものものあり、文字通り断腸の思いです。

「『○○』の制作について教えていただきたいことがあります」というメールがきょう、届きました。私が企画から編集・制作まで担当したタイトルの版権を買った出版社の編集者からです。

我ながら良い視点で企画を立てることができ、著者にも恵まれ、ベストセラーにはならなかったものの、ロングセラーになったタイトルです。自分で改訂を手がけられないことに若干の悔しさがありますが、まだ改訂を続けて新しい読み手に届けられていることを嬉しく思いました。

いまは極力、他社と接することや物に触れることを避けるようになっていますし、オンライン上のサービスの便利さはよく分かりますが、それでも目で見て手で触れられることを超えるのは無理なのだろうと思うわけです。

紙の書籍のページをめくる感覚、続きが気になって早く次のページをめくりたくて焦る気持ち、最後のページをめくってからの充実感…書籍に限らず、直接、接することを制限されている昨今ですが、目で見て、手で触れるということはとても重要だと思います。

おっぱいもVRで触った気になるより直接触ったほうが良いし、おっぱいを触りたいわけですよ。