電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

コソコソと逃げ出したせこい小物に振り回されたという事実

カルロス・ゴーン氏が逃げたことで最も衝撃を受けているのは、検察でも裁判所でもなく、日産社員(元を含む)でしょう。特に、現場で必死に働き、実質的に日産を支えている平社員クラスに与えた衝撃は強烈だったのではないかと思います。

それは、スパイ映画さながらの大脱出劇に対してではありません。「コソコソと逃げ出すようなせこい奴の下で働いていた」ということに対してです。手法はどうあれ倒産寸前だった日産を復活させた名経営者だと思っていた日産社員を完全に裏切ってしまいました。

名経営者だったはずなのに

何度か書いていますが、私の親父は元日産の技術屋です。18歳で日産に入社し、高度経済成長期でイケイケドンドンの時期から、放漫経営で倒産寸前になってゴーン氏が大ナタを振るうまで40年以上、ずっと内部で見てきました。

酔っ払ったときにぽつぽつと話すぐらいで多くを語りませんが、長年の取引先を問答無用で切ったり、全盛期を支えてきたベテラン社員を退職に追い込んだり、見切りを付けて転職していった部下を何人も見送ったり、かなり悲惨な状況だったようです。

それでも、日産が倒産を免れたのはゴーン氏のおかげと思っていますし、ゴーン氏でなければ大ナタを振るえなかったと評価しています。年末に会ったときも、何だかんだ言ってもあのときにカルロス・ゴーンが来なければ日産はなくなっていたはずだ、と言っていました。

全否定された日産時代

隣の部署で業務はまったく違う(あちらコンサル、こちら編集)ものの、以前に席が近かったことから休憩スペースで会うと話す同僚がいて、実は彼が元日産社員だったことをきょう初めて知りました。「せこい奴」というのは彼が言ったことです。

会社の金を私的に使ったなど、ゴーン氏が犯したとされる不正については特に何とも思っていなかったそうです。社内の権力争いを間近に見ていて、ゴーン氏は本当に罪を犯したのか、もしかしてハメられたのではないかと思っていたそうです。

だから、そのためにもきちんと裁判を受けて、司法の場で事実を明らかにして欲しいと思っていたそうですが、それをせずに逃げ出したことに心底がっかりしたそうですし、日産を良くしようとがんばって働いていた時期を全否定された気持ちになったそうです。

割を食うのは現場の社員

以前から指摘されているように、有罪ありきで進める取り調べだったり、人としての尊厳をズタズタにされるような扱いだったり、日本の刑事司法に問題があることは事実です。しかし、だからと言って逃げてよいわけではありません。

ゴーン氏に何の思い入れもない私ですら何だかバカにされたように感じます。親父のような長年、日産を支えてきた社員だったり、バッサリ切られた取引先だったり、「こんなせこい小物にいいように振り回されたのか」と虚しくなっている人は多いのではないでしょうか。

日産社員はどんな気持ちできょうの仕事始めを迎えたのか。割を食うのはいつも現場で真面目に働く平社員です。