出版物の総額表示
「版元ドットコム」という団体に参加しています。出版社や編集者の集まりで、出版社向けのサービスを提供したり、意見交換をしたりしています。私はもう出版社の書籍編集者ではありませんが、書籍や出版業界の今後を考え続けていきたい思い、個人の会友という扱いで参加させてもらっています。
規模の大小を問わず全国の版元が参加しており、ふだんはメーリングリストでの意見交換が活発ですが、ここ数日、出版物の総額表示について喧々諤々のやり取りが交わされています。「本体価格+税」「本体価格(税別)」といったではなく消費税込みの価格、要はレジで払う本当の金額を表示しなさい、というものです。
2013年6月に成立した消費税転化対策特別措置法に基づき、消費税の総額表示が一般的になってきましたが、それでもレジでお金を払う際に消費税を忘れていて、特に高額商品を買うとき「げっ、こんなに高いの!」と思うことがあります。意図的にこれをやって、消費者に安いと思わせる(騙す)ことを防ぐための総額表示です。
まだ税別表記が残っているのは、いきなり総額表示にするのは大変だろうということで、移行期間が設けられました。しかし、それが来年3月、つまり半年後に終了することになりました。Twitterでもトレンド入りするほどで、意見を述べているブログなどもちらほら目につきます(反対意見ばかり)。
ただ、来年3月に移行期間が終了することはもう何年も前から分かっていたことですし、ほかの業界は総額表示が進んでいるのに、なぜ出版業界だけ税別表示に固執し続けるのかが分かりません。正確には、固執し続けるのは分かっていて、なぜ出版業界だけ特別扱いされるべきだと思い込んでいるのかが分かりません。
実際、再販制度に代表されるように、出版業界(新聞も)はかなり特別扱いされています。再販制度については以前、さらっと紹介しましたが、業界から離れてみると、よくできた制度であると同時に異様な制度であるとしみじみ思います。外人に理解できないのも当然です。
この辺について書き始めると止まらなくなるのでやめておきますが、とりあえず感情で反対するだけでは何も生まれません。「総額表示にすることで値上げ感を与えてしまい、買ってもらえなくなる。出版社も書店も終わりだ」という主張を見かけましたが、高くても買いたいと思われる書籍を制作すればよいだけではないか?と思う私は裏切り者でしょうか。
そんなことが簡単にできたらみんなすぐにやっている、と思われるでしょうけど、根本的な問題は目先の利益を追い求めてベストセラーに乗っかって同じようなタイトルを乱発する出版社の体質にあるはずです。読み手がほしいと思える書籍を制作できていないのですから、税別表記だろうが売れないものは売れません。
良いものを作りたいけど会社の方針でよぉ…という編集者の愚痴もよく分かりますが、不満があるなら辞めればよいだけのことです。実際、私は辞めました。編集者を取り巻く環境の厳しさをよく分かった上で、私は総額表示に対する反対が理解できません。書籍に限らず、いまの消費者は良いものを正しく評価し、きちんとお金を払うと思っているのですが。
まだ移行期間終了までまだ半年あるので落ち着いていますが、3か月を切る年末から年明けにかけて盛り上がってきそうです。しばらく様子見です。