電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

不夜城

横浜には中華街があり、中国人が多いと思われています。それは間違いではありませんが、正確でもありません。日本人は中国語を話している人々を中国人だと思っていますが、そもそも中国語とひと口に言っても、北京語から上海語、広東語、台湾の国語まであります。

日本人にとってそれらはすべて「中国語」に聞こえますが、彼らにとってはまったく別物であり、特に台湾出身者に中国人と言うと烈火の如く否定します。「私は“台湾人”であって、中国人ではない」と言いますし、中には中国人と一緒にするな、と怒る人もいます。

元カノは台湾人

横浜で働いていた新聞記者時代、台湾出身の女性と付き合っていました。彼女と付き合う前まで、私にとって中国語っぽい言葉を話す人はみんな中国人だと思っていましたし、中国出身(大陸)だろうが台湾出身だろうがみんな同じだと思っていました。

それを軽い気持ちで言ったら激怒されましたし、いつか大陸から攻めてくると本気で思っていることに驚きました。子どものころの避難訓練は、大陸から人民軍が攻めてきたという想定で実施されたそうです(私は首都直下地震が発生した想定でした)。

「台湾」が中国と区別され

7年前に印象的な出来事がありました。1952年から60年間、日本に滞在する外国人には「外国人登録制度」がありましたが、2012年に「在留管理制度」に変わり、それまで発行されていた外国人登録証が、在留カードに切り替わりました。

見た目は大して変わりませんが、台湾出身者にとって歴史的な変更がありました。台湾出身者の外国人登録証の国籍・地域欄には「中国(台湾)」と記載されていましたが、それが「台湾」になりました。台湾と大陸をきちんと分け、独立した国籍・地域と見なしたわけです。

世間一般的にはまったく話題になりませんでしたが、横浜の台湾人コミュニティでは祝賀式典が開かれるほどでしたし、私も取材しました。ちなみに、このとき同時に「パレスチナ」も国籍・地域欄に記載されるようになり、これはこれで結構、問題になったようです。

不夜城

『不夜城』という小説と、これを基にした映画があります。新宿・歌舞伎町を舞台に、中国人マフィアなどの争いを描いたもので、金城武が主演、山本未来がヒロインでした。アマゾンプライムで昨夜、なぜかこれがオススメとして表示され、つい見入ってしまいました。

学生時代、私の母校に台湾からの留学生がいて、仲良くしていました。彼の身元引受人というか、後ろ盾になっていたのが、新宿・歌舞伎町の台湾出身者社会の実力者で、私も何度か一緒に食事したことがありました。大学が高田馬場で、新宿に近かったせいもあります。

そのときの歌舞伎町はまさに『不夜城』の状態で、いまでこそ表面的には安全になった歌舞伎町ですが、その当時は表面的にも危険で、その辺でケンカは日常的、青龍刀を持って誰かを追いかける集団という映画のような場面も目にしました。

横浜の不夜城「福富町」

横浜市役所や神奈川県庁がある関内、みなとみらい地区がある桜木町の周辺は、JR京浜東北・根岸線を境に、海側と陸側でガラッと趣が異なります。海側は多くの人がイメージするいわゆるヨコハマ、一方の陸側は多国籍が入り混じるカオスです。

横浜には2箇所の中華街があります。観光地である海側のいわゆる中華街と、歓楽街である陸側の福富町です。福富町は中国人だけでなく、台湾や韓国、東南アジアなどの人々が入り混じった街ですが、最大勢力は中国人です。神奈川県警も手が出ない、横浜の不夜城です。

元カノは美容学校の学生でしたが、彼女の後見人は福富町で女性が接客してくれるほうのクラブを経営し、台湾人コミュニティの地下銀行を仕切る顔役でした。日本という異国で、さらにグレーゾーンを生き抜いてきた、ゴッドマザーでした。

グレーゾーン

新聞記者時代は私もグレーゾーンに片足を突っ込み、欲望のカオスの中を泳ぎ回ったこともありました。そんなことを思い出し、感傷に浸るクリスマスです。なお『不夜城』は、山本未来の美人っぷりに背筋がゾクゾクしますが、救いのない物語なので、少なくともクリスマスに見るようなものではありません。