電車の中の恋人

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花粉症ではないけれど

お仕事で花粉症薬の保険適用外をテーマにコラムを1本書いてみたり。マスコミの仕事は世論を煽ることですが、本質は少し違うのではないかと思ってみたり。

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■600億円が日本の医療費全体に占める割合

花粉症治療薬の保険適用からの除外や自己負担率の引き上げを進めるべきだ――健康保険組合連合会(健保連)が8月23日に発表した政策提言に対し、SNS上には「保険適用除外などありえない」といったコメントが相次ぎ、文字通り蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。

健保連は、すべての花粉症治療薬の保険適用除外を求めているわけではありませんし、窓口負担3割の患者が医療機関を受診して薬を処方してもらった場合の診察代などを含む自己負担額と市販薬の購入費用には大差がないと指摘しています。ただ、保険適用除外となれば窓口で支払う薬代が増えるので批判が殺到することも当然ですし、そこに保険費用削減効果600億円という目を引く数字が火に油を注ぐ形となりました。

しかし、花粉症治療薬の保険適用除外ばかりが一人歩きしていますが、健保連はこのほか▽機能強化加算の見直し▽フォーミュラリの導入推進▽繰り返し利用可能な処方箋(リフィル処方)の導入促進▽調剤報酬の見直し――という重要な項目を提言しています。特に機能強化加算と調剤報酬の見直しは病院・薬局経営に大きな影響を与えるもので、中央社会保険医療協議会でのかかりつけ医機能や調剤報酬の論議で波紋を呼ぶと見られています。

機能強化加算は、かかりつけ医機能を評価するために2018年度診療報酬改定で導入されたもので、地域包括診療加算や小児かかりつけ診療料、在宅時医学総合管理料などを届け出ている診療所・200床未満の病院)で、初診時のコストを考慮して初診料に80点を加算するものです。健保連の調査によると、機能強化加算を算定された患者の約6割は受診回数が1回のみで再診がありませんでした。

それでも、妊婦加算と同様、患者の疾患内容などに関係なく“一律に”算定され、診療報酬の意図と算定患者の不整合が見られるため、生活習慣病などの慢性疾患を有する継続的な管理が必要な患者に対象を限定するなど見直すべきとしています。なお、健康保険組合全体の機能強化加算の算定金額は年間50億円程度と見込まれています。

花粉症治療薬の保険適用除外による600億円の削減、機能強化加算の算定金額50億円という数字はどちらも巨額です。ただ、例えば600億円の保険費用削減効果は日本全体の医療費の1%にも満たない数字です。厚生労働省によれば、13年度から17年度にかけて日本全体の医療費は39.3兆円から42.2兆円に増え、約3兆円増えた医療費のうち75歳以上の高齢者にかかる医療費の増加は1.8兆円を占めています。

診療報酬や薬剤費の見直しや削減は必要で、できる部分からやるべきことは大切です。ただ、高齢化によって増加を続け、42兆円を超えている日本の医療費の全体像を直視している人は、SNS上にどれだけいるのでしょうか。国民病ともいえる花粉症をめぐって起きた議論は、診療報酬や調剤報酬など日本の医療制度全体の在り方をあらためて考えるきっかけになるかもしれません。