電車の中の恋人

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妊婦加算とミスリードを招くマスゴミ

新聞や雑誌、ネットニュースの見出しに引かれて読んでみたら中身がまったく違ってガッカリした経験は誰しも1度はあるはずです。ミスリードを招くような見出しを付けるのはマスコミの常套手段ですし、私も新聞記者時代によくやってしまいました。こういうことをやるからマスゴミと呼ばれてしまうのですが。

www.nikkei.com

この記事の見出しを見て、どのような内容を想像するでしょうか。「妊婦加算の代替制度」ということで、やり方は変えるものの、結局は妊婦に負担させることに変わりはないように思えないでしょうか。少なくとも、私はそう思いました。

「そういえば妊婦加算なんてあったっけ…」という人が多いと思います。問題になったのはちょうど1年前でした。妊婦加算とは、妊婦が外来診療を受けたときに自己負担額が上乗せされるもので、時間内の初診で3割負担の場合は約230円が自動的に加算されました。

妊婦に対する診療は胎児への配慮など通常より慎重な対応が求められます。医師といっても万能ではなく、妊婦に対する診療経験や知識が乏しく、自信がない医師もいます。妊婦の診療を断るような医療機関もあることから、妊婦に対する丁寧な診療を評価しようという意図で新設されたのが妊婦加算です。

妊婦「風邪を引いて病院に行ったけど診てもらえなかった」
 ↓
医師「だって妊娠してると怖いんだもん」
 ↓
国 「じゃあがんばって診てくれた分、診察料に上乗せして妊婦からもらっていいよ」
 ↓
医師「おっしゃ、評価してくれるならやるわ」
 ↓
妊婦「この前は断られたけどきょうは診てもらえてよかった」

これ自体は正しい考え方です。しかし、コンタクトレンズの処方や湿布の処方など、妊婦でない人とまったく同じ、特に妊婦であることを考慮しなくてもよいような診療まで「妊娠しているから」という理由だけで上乗せされるといった事例があり、ツイッターから火がついて、今年から凍結されていました。

日本の医療政策を議論する中央社会保険医療協議会なるものがきょう開かれ、妊婦加算について議論されました。厚労省は妊婦加算の廃止を提案し、委員はみんな賛成したので、来年4月に廃止される見通しです…というか、廃止決定です。

代わりにどうするかというと、妊婦の診療に自信がない産婦人科以外の医師に対する研修や相談窓口の設置、妊婦の診療に積極的な医療機関をウェブなどですぐ分かるようにするといった体制整備です。妊婦に費用を負担させず、妊婦が受診できるところを増やそうという方針です。

もう一度、言いますが、妊婦だから追加でお金を払わなければならない、という仕組みではありません。他の患者と同じ診察料はもらいますが、それ以外は不要ということです。ここでリンク先の記事の見出しをあらためて見て、違和感がないでしょうか。

また、記事本文も絶妙な書き方で、妊娠していると別途お金を取られるようなニュアンスになっていますが、そんなことはありません。普通に医療機関を受診したときに払うお金と同じ、常識的なお金を払うだけです。何の問題もありません。

私は目の前でやり取りを聞いていましたし、こうなるまでの経緯なども少し知っているので冷静に判断できますが、妊婦に対する差別だ!などと騒ぐ人も少なからずいるのではないかと思ってしまいますし、それも仕方ないと思います。

正しい情報と、それに基づく正しい認識、そこから生まれる正しい意見というものが求められます。ただ、これだけ情報過多の中で無理だよなー、とも思うわけです。そもそも正しい情報なんて世の中にあるのかしらん。