電車の中の恋人

悠々自適なアラフォー独身貴族の日常

策士

「オレから誘っておいて申し訳ないんだが、待機命令が出たから今日は無しにしてくれ。また連絡する」

今日は新聞記者時代の先輩と飲むはずだったのですが、横浜市内に大雨警報が発令され、先輩には待機命令が出されたとのことでお流れになりました。

先輩は社会部の次期デスクと言われているエース記者です。私は経済部で、社会部とはライバル関係にありましたが、なぜかいつも気にかけてくれていました。

先輩から久しぶりに連絡があったのは先週でした。先輩には曜日の都合などなく「毎日が月曜日」状態のはずですが、カレンダー通りの私に合わせてくれました。

新聞記者時代の私も毎日が月曜日の状態でした。翌日に休めそうだと分かるのは朝刊が校了する深夜で、休みといっても泥のように眠るだけでしたが。

先輩の用件は何となく分かっています。戻ってこないか、という誘いです。人材不足についてはまだ残っている同期から頻繁に聞かされています。

仮に明日、新聞記者に復帰したとしても、すぐにそれなりのネタを取ってくる自信があります。そのような仕事をしてきた自負を持っています。

ただ、私が戻れる可能性はいまのところありませんし、戻るつもりもありません。私が新聞記者を辞めたときの経営陣がまだ居座っているからです。

ドラマの『半沢直樹』では最後、堺雅人香川照之を土下座させましたが、あれはあくまでもドラマであり、現実には絶対にあり得ません。

現実には絶対にあり得ないことが分かっているもののせめてドラマの中では夢を見たい、というサラリーマンの共感を得られたからこそ『半沢直樹』は大ヒットしたわけです。

現実は香川照之側が圧倒的な勝利を収めます。そして私も現実世界で香川照之側である経営陣に完膚なきまでに負けて辞めることになりました。

もしかしたら、先輩は香川照之側になれる見込みが立ったのかもしれません。「あの人は策士だ」と以前からよく耳にしていましたから。

しかし、それならそれでホイホイと誘いを受けることもためらわれます。“策士策におぼれる”のことわざ通り、信頼に足る人物かどうか、私も見定める必要があります。

そしてこのようなことを無意識的に考えている自分にふと気づき「我ながら策士になってしまった」と虚しくなります。

世の中はすべてキレイ事、策を弄しなければ生きていけませんし、それは決して悪いことではなく、当たり前のことです。

そのことをすべて理解した上で、それでもできれば策を弄せず生きていきたいと思ってしまう私は若造です。

もういい歳した大人なのに。