編集実務
「編集とは実際にどのようなことをしているのですか」というご質問をいただきました。
昨日も少し触れましたが「編集者をやっています」と言っても具体的にどのようなことをやっているのか分からない方が多いと思います。編集の仕事を始める前、実は私もよく分かりませんでした。
ひとことで言うと、著者が書いた原稿を整理して明らかな間違いや読みにくい箇所を修正していくことですが、これでは漠然としすぎて分からないと思います。
そこで、短めのすごく簡単な具体例をお見せします。ああだこうだと言葉で説明するよりも編集前と編集後のテキストを見てもらうほうがよく分かるはずです。
まず、編集前のテキストがこちら。
(1)TPP整備法とIR法
内閣官房から提出された「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案」は、平成28年12月9日成立、12月16日公布された。
整備法に含まれるのは、私的独占の禁止及び公正取引の確報に関する法律、特許法、商標法、関税暫定措置法、医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律、畜産物の価格の安定に関する法律、砂糖及びでん粉の価格の調整に関する法律、著作権法、独立行政法人農畜産業振興機構法、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律、経済上の連携に関する日本国とオーストラリアとの間の協定に基づく申告原産品に係る情報の提供等に関する法律、である。
(中略)
一方、議員立法として提出された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」は、平成28年12月15日成立、12月26日に公布された。
そして、編集後のテキストがこちら。
(1)TPP整備法とIR法
内閣官房から提出された「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案」(TPP整備法)は、平成28年12月9日に成立、12月16日に公布された。
整備法に含まれるのは▽私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律▽特許法▽商標法▽関税暫定措置法▽医薬品・医療機器等の品質▽有効性及び安全性の確保等に関する法律▽畜産物の価格安定に関する法律▽砂糖及びでん粉の価格調整に関する法律▽著作権法▽独立行政法人農畜産業振興機構法▽特定農林水産物等の名称の保護に関する法律▽経済上の連携に関する日本国とオーストラリアとの間の協定に基づく申告原産品に係る情報の提供等に関する法律―である。
(中略)
一方、議員立法として提出された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(IR法)は、平成28年12月15日に成立、12月26日に公布された。
修正した箇所が分かりやすいよう、赤字にして下線を引きました。編集前と編集後のテキストを読み比べてもらえれば何となくでも分かるかと思います。
まず「確報→確保」「確保→確保等」「の→トル」という明らかな間違いは絶対に修正します。
「(TPP整備法)」「(IR法)」の挿入については、別にママでも間違いではありませんが、見出しに設定された2つの略称がどれに当たるのか分からない方もいるでしょう。
本文中で正式名称が表記されているので、それぞれ「TPP整備法」は「環太平洋~」、「IR法」は「特定複合観光施設~」の略称であることが分かるようにします。
また「に」の挿入は、読みやすくすると同時に、編集前は終わりだけ「12月26日に公布された」となっているので前の箇所を修正し、表記を統一します。
最後に「 、 → ▽」は私の好みです。新聞記事では箇条書きをこのように書くのでこうしたのですが、むしろママとする編集者のほうが多いと思います。
なお、好みによる修正は必ず著者に「このようにしてみてはいかがですか」と確認します。いくら読みにくいと思っても、原稿は著者のものであるため、そう簡単に修正してはいけません。
「あなたに直してもらうと明らかに読みやすくなるのですべてお任せします」と著者に言われるぐらいの信頼関係を築くことも重要な仕事の1つです。
例として分かりやすいよう、短いテキストを挙げましたが、実際は書籍であればこれを数百ページ分、さらに引用箇所や事実関係の確認なども行うわけです。集中力と根気が求められます。
著者から原稿を受け取った際、誤脱字が多かったり、言い回しがくどくてとにかく読みにくかったり、先が思いやられることがほとんどです。
しかし、それをコツコツと整え、著者とコミュニケーションをとりながら二人三脚で仕上げ、手に取れる書籍となって出来上がったときの喜びは得難いものです。
やはりまた書籍を作りたい。いまアシスタントに任せているものをすべて引き取ってしまおうか。いや、自分で作っている余力はまったくないのですが。
ところで、スマホでご覧いただいている方が多いようであまり知られていないと思いますが、メールフォームを設置してあります。スマホでは表示されず、PCだと見られます。
ちょっとしたことでもまーったく構いませんので、ご意見、ご質問などあれば遠慮なくご連絡ください。罵詈雑言はスルーしますが、返事は100%です。
ただし「ずずずさんはどれぐらいブサイクなんですか」という問い合わせは涙でモニターが見えなくなってしまうのでご遠慮いただけると幸いです。