電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

外資系サバイバー

甘くない ― 転職エージェントに提示された求人を見て実感しました。前回の転職でもエージェントを利用したので分かっているつもりでした。「あのときと比べてキャリアを積んだし、スキルも磨いたし、エージェントにとっても貴重な人材だろう」と思い上がっていた自意識を打ち砕かれました。

転職エージェントに提示された求人は7件で、どれも日本全国の書店に並んでいる書籍を刊行し、誰かに言えば「そこ知ってる」と言われるような中堅出版社です。年収もいまと同等か、数十万円増えるものもありました。

ものすごく贅沢なことを言っている、と自分で思います。世間の大多数の人々は、好きでもない仕事を日々こなし、何とか必死に生きています。それなのに、私は好きな仕事であるだけでなく、年収も問題ない求人に対して満足していないのですから。

出版業界は狭く、どこの出版社にも直接の知り合いはもちろん、同僚の知り合いがほぼ必ずいます。ある出版社を辞めたとしても、スキルを生かせるのは出版業界しかないため、ほとんどが別の出版社に移るか、フリーになります。

今回の7件はどこも内情をよく知っているところでした。いま知り合いが在籍しているところもあれば、知り合いがかつて在籍していたところもありました。そして、耳にするのは悪い話ばかりです。

また、7件とも前回の転職活動でも紹介されたところでした。いつも求人を出しているということは常に人手不足であり、採用しても定着しないことを意味しています。仮に採用されたとしても、また数年で辞めることになるかもしれません。私は、できればもう2度と転職活動をしたくないのです。

今日行った転職エージェントのWebサイトに、紹介されたらぜひ応募したいと思う魅力的な求人がありました。応募条件を見る限り、私はすべて満たしていました。しかし、今日の面談では紹介されませんでした。

転職エージェントは、このような“釣り”の求人を目立つように表示します。中小規模の有象無象のエージェントには特に多いです。そして、それも前回の転職活動で学習したつもりでしたが、つい期待してしまいました。

ふと考えてみました。

今回の急なリストラには本当に驚きましたし、傷つきました。しかし、いきなりやるか、じわじわやるかの違いだけであって、日系企業であっても今後、リストラは珍しくなくなるはずです。むしろ、外資のやり方はとても分かりやすいものです。

今回の急なリストラ以外に、実は悪いところが見つかりません。書籍の校了間際などを除けば定時で帰れる業務量しか割り振りませんし、自分で調整さえすれば有休消化率100%も可能です。むしろ、口先だけでなく、有休取得を本気で推奨しています。産休制度もきちんとしていますし、育休を取った男性社員もいるそうです。

周囲は仕事ができる人間ばかりですし、ミーティングも日系企業のようにダラダラと聞いているだけでなく誰もが発言して白熱します。日本語で話していたと思ったら英語に変わり、気付いたら北京語になっていることもあります。とても刺激的です。

そして何より給料が良い。

私はこれまで自分のことを安定した職場でじっくり働くタイプの人間だと思っていたのですが、実は“Up or Out”(昇進するか辞めるか)という刺激的な職場がたまらない人間だったのではないかと思うようになりました。

今日の転職エージェントは新宿でした。大学に行くときいつも新宿で乗り換えていたので、学生時代はよく新宿で遊んでいたのですが、就職してからはなかなか新宿をウロウロすることがなく、駅周辺を歩いたのは結構、久しぶりでした。

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あのころ、大学院に進んで研究者になりたいと思っていました。しかし、いまはなぜか外資系企業の中でサバイブしています。人生、何があるか分かりません。

「研究者も良いけど、外資系企業でサバイブするのも刺激的で面白いぞ」― あのころの自分にそう言えるようになったら、われながら成長したと思います。その代わりに、人として大切なものを捨てるのかもしれませんが。