電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

裏口

お昼ごはんを食べに外に出たら、ふみちゃんらしき女性を見かけました。すごく離れていたのと、少し度を下げたPC用メガネだったので、確実に本人かどうかは分かりませんが。

ふみちゃんとよく似た背格好や髪型の女性を見かけるたび、無意識に隠れようとするか俯いて顔を隠すようになってしまいました。気づいたら猫背になっていることも増えました。

イケメンでなくとも、せめてもう少し普通の顔だったら、と思うのですが、こればかりはどうしようもありません。整形しようとまでは思いませんし。

メジャーデビューしたら2ちゃんねるなどで「うはっ、ベースは上手いのにすげーブサイク」「人前に出られる神経が理解できん」などと叩かれるかもしれません。

あらためて気づきましたが、メジャーデビューしたら多くの人の目に触れることになるわけです。テレビに出ることなどないでしょうけど、数百人規模のライブも珍しくなくなるでしょう。

ふみちゃんが働いていると思われるオフィスビルを眺めながら裏口でタバコを吸っていると、自分はやはり日の当たらないマイナー路線のほうが合っているのだろうと思います。

いっそのこと、ふみちゃんへの想いも一緒に断裁してもらいたいものですが、これだけは自分でしかケリをつけることができません。苦悩の日々は続きます。

心の断裁

「遅くとも7月には著者や取次、書店への書籍出版事業の廃止に関する説明を始めます」

なし崩し的に書籍出版事業が続くのではないかと思っていたのですが、どうやら甘かったようです。対外的なアナウンスの開始が決まりました。

取次や書店からの返品は年内のみとし、新たな出荷は停止します。また、既刊書籍の著者には今後、重版しないことを説明し、他社への版権の移管を勧めます。

ただし、著者が他社からの出版を希望しても、版権を譲り受けて出版してくれるところが見つからなければ不可能です。いわゆる絶版になります。

他社も営利企業です。当たり前ですが、利益を得られそうな書籍、売れそうなタイトル以外は不要です。リストの中から欲しいものだけをハゲタカのようにくわえていきます。

どこからも欲しいと言われずに残ってしまったタイトルはもう2度と日の目を見ることはありません。そのままずっと闇に葬られ続けます。

また、倉庫の在庫やこれから返品されるものは年末にすべて断裁されます。著者やデザイナー、DTP、印刷会社など多くの関係者と一緒に作り上げたものがすべてゴミになります。

特につらいのが現在制作中のタイトルです。注文や問い合わせの状況を考慮して最低部数を印刷しますが、それでも数百部になります。

出荷するのは刊行前に注文が入っている部数のみです。残りは印刷会社から倉庫に納品されるだけで、倉庫から一度も出ることなく断裁されます。

著者はいま忙しい合間を縫って校正してくれています。こちらもできる限り要望に応えています。しかし、出来上がった直後にゴミになります。

読者のためになる書籍を生み出す仕事だと思っていたのですが、いまやゴミを作る仕事になってしまいました。モチベーションを保つことが難しくなりつつあります。

編集者としての私の心も一緒に断裁されるのでしょう。いまは少しずつ切り刻まれている気分で、書籍を作りたいと思う気持ちが奪われています。

決して短くはないサラリーマン人生で、これまでも理不尽なことは数多く経験してきました。今回は最上級のつらい事態ですが、仕方ありません、サラリーマンですから。