電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

心の断裁

「遅くとも7月には著者や取次、書店への書籍出版事業の廃止に関する説明を始めます」

なし崩し的に書籍出版事業が続くのではないかと思っていたのですが、どうやら甘かったようです。対外的なアナウンスの開始が決まりました。

取次や書店からの返品は年内のみとし、新たな出荷は停止します。また、既刊書籍の著者には今後、重版しないことを説明し、他社への版権の移管を勧めます。

ただし、著者が他社からの出版を希望しても、版権を譲り受けて出版してくれるところが見つからなければ不可能です。いわゆる絶版になります。

他社も営利企業です。当たり前ですが、利益を得られそうな書籍、売れそうなタイトル以外は不要です。リストの中から欲しいものだけをハゲタカのようにくわえていきます。

どこからも欲しいと言われずに残ってしまったタイトルはもう2度と日の目を見ることはありません。そのままずっと闇に葬られ続けます。

また、倉庫の在庫やこれから返品されるものは年末にすべて断裁されます。著者やデザイナー、DTP、印刷会社など多くの関係者と一緒に作り上げたものがすべてゴミになります。

特につらいのが現在制作中のタイトルです。注文や問い合わせの状況を考慮して最低部数を印刷しますが、それでも数百部になります。

出荷するのは刊行前に注文が入っている部数のみです。残りは印刷会社から倉庫に納品されるだけで、倉庫から一度も出ることなく断裁されます。

著者はいま忙しい合間を縫って校正してくれています。こちらもできる限り要望に応えています。しかし、出来上がった直後にゴミになります。

読者のためになる書籍を生み出す仕事だと思っていたのですが、いまやゴミを作る仕事になってしまいました。モチベーションを保つことが難しくなりつつあります。

編集者としての私の心も一緒に断裁されるのでしょう。いまは少しずつ切り刻まれている気分で、書籍を作りたいと思う気持ちが奪われています。

決して短くはないサラリーマン人生で、これまでも理不尽なことは数多く経験してきました。今回は最上級のつらい事態ですが、仕方ありません、サラリーマンですから。

「権利だ!」と言われましても

「4月から時給を上げてもらえませんか」

だから権利を主張する前にまず義務を…。

残った1人の派遣スタッフに時給の値上げを要求されました。正確には派遣スタッフから要望を聞いた派遣会社の担当者(若い女性)が乗り込んできました。

取材や原稿執筆など広告チームが発行する紙媒体のアシストをお願いしたところ「責任が発生するから時給を上げろ」と言っているそうです。

派遣スタッフに責任を求めるようなことはありません。もし何か問題が発生したら私を含む正社員がすべての責任を取ります。当たり前のことです。

どうやら派遣会社に「当初は書籍の制作業務だけだったのに、雑誌や別冊、広告媒体までやらされることになった」と伝えたそうです。

確かに間違いではありませんが、それをすべて同時並行でお願いしているわけではなく、書籍が待ちの状態のときには雑誌のサポートといったように振り分けています。

また、9時30分~18時00分に終わる業務量です。早出や残業はこれまで1度もお願いしたことがありませんし、当日休みにも目くじらを立てません(先日は例外)。

そもそも、先日キレたときに契約書を再確認しましたが、契約上の担当業務は書籍に限らず雑誌を含む編集部全体のサポートです。

広告媒体は以前から編集部がサポートしており、実質的に編集部の業務となっているため、それをサポートすることは当然のことです。広告チームの業務ではありません。

もっと言うと、先月末でもう1人の派遣スタッフが急に辞めたため、残る1タイトルは外注することにしました。つまり、彼の仕事がなくなるわけです。

広告媒体は契約をもう少し延長してほしいと伝えてきた彼のために何とかひねり出した仕事でもあるのです。それが大変そうだから時給を上げてほしいとは理解に苦しみます。

良い機会なので、実際の業務量などを伝えると同時に、休みが多くて困っていることを伝えました。先月末で急に辞めた方を含め、御社が紹介する人材はどうかと思います、と。

イライラすると淡々と理詰めで追い込み、手加減せずに徹底的にやり込めてしまうのは本当に悪いクセです。派遣会社の担当者を危うく泣かせるところでした。

いったん持ち帰り、当人とあらためて話して事実確認するそうです。もし値上げしないなら辞めると言われたら、もうそれでもよいと思っています。私がかぶればよいだけですから。

それにしても派遣会社に払う時給をたとえば50円上げたとしても、当人に支払われる時給は10円ぐらいしか上がらないそうです。ピンハネ、恐るべし。