電車の中の恋人

通勤電車で一緒になる女性に恋して散ったブサメンの日常

苦しい言い訳

「うちは制作だけで、販売・流通は他社がやることになるので、納品はいつものうちの倉庫ではなく、販売元の倉庫に」― われながら苦しい言い訳で、印刷会社の営業さんも怪訝な顔をしていましたが、何とか押し切りました。

書籍出版事業からの完全撤退が7月に決まり、すでに制作を開始していたものを除き、原則として刊行中止命令が下りました。脱稿していたものは弊社で別の出版社を探し、著者にそちらから刊行してもらうことにしました。

その際、書籍出版事業からの完全撤退については言っていません。米国本社の意向で刊行点数を絞ることになった、と説明しています。弊社から刊行するものはマーケの分析結果に基づく確実に売れそうなもの、と伝えています。

逆を言えば「売れなさそう」と言っているわけで、ものすごく失礼なのですが、そこは著者の人柄も判断材料になっています。弊社からの刊行が中止になっても怒らないであろう著者を選んだのです。

一方、著者のネームバリューなどから「うちから刊行しないと著者と揉めるのは確実で、今後の日本でのビジネスに影響が出る」と判断されたものは、弊社で制作から販売・流通まで担当します。私が同僚から引き継いだシリーズ本がそれです。

そして、もう1つのパターンとして、制作を弊社で担当して、販売・流通を他社にお願いするというものがあります。私がいま制作しているタイトルがこれに当たります。

初版部数のほとんどを著者が買い取るということで話がつき、弊社は損をしない計算になっています。「とにかく世に出るのであれば販売・流通方法は気にしないが、制作は気心が知れた編集者にお願いしたい」という著者です。

上層部のスタンスは「書籍出版事業からの完全撤退についてステークスホルダーには絶対に話すな」というものです。前述の印刷会社にはもちろん、デザイナーやDTPにも話していません。

カバーや奥付に他社の名前が載るため、デザイナーやDTPにも怪訝な顔をされましたが、「今回は編集部で企画から担当したものではなく、営業がクライアントに頼まれたもので…」という苦しい言い訳をしています。

DTPはこれまで何冊もお願いしているいつもの方です。業界歴が長く、薄々感づいていると思いますが、私の苦しそうな表情から察してくれたのか、特に触れずに受けてくれました。

せっかくここまで良い関係を築いてきた関係者に本当のことを言えないのはとても心苦しいです。特に印刷会社の営業さんは3年目の若い女性で、昨年、弊社の担当になったとき「初めて出版社さんを担当させていただくことになりました!」と喜んでいたのです。

彼女はいつもテキパキと動いてくれて、結構な無理も聞いてくれました。デザイナーもDTPも、厳しいスケジュールであるにも関わらず、「ずずずさんだから特別に」と言ってこなしてくれました。

大量の仕事をこなさなければならなくなったことについては、組織に属するサラリーマンとして仕方ないと割り切っています。しかし、信頼関係を築き上げた方々を裏切るのは耐えがたいです。

組織人であることによる苦悩はこれまで何度もありましたが、今回ほど苦しいことはありません。しばらくは心を閉ざして、マシンと化して仕事をこなしていこうと思っています。