電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

美人、来襲す(その3)

当たり前ですが、いきなりニューハーフクラブと言われても何が何だか分かりません。ニューハーフということは男だけど見た目は女性で…と頭で分かりますが、目の前の北川景子とは結びつきません。

きょとんとしてフリーズしてしまった私を楽しそうに見て「あ~、信じてないでしょ。じゃあ、特別に証拠見せてあげる」と言い、彼女はおもむろに立ち上がってスカートをめくり上げました。薄いブルーのレースの下着…よりも膨らみが目に飛び込んできたことで、ようやく理解しました。

お、男っすか!

顔はどう見ても北川景子、肩甲骨まである髪の毛はサラサラでツヤのある栗色、声は完全に女性でのど仏もなし、細い指先にはキレイなネイル、腰だってくびれていますし、足首もスッキリ。どこからどう見ても女性です。しかし、股間にはモノが。

ただ、自分でいうのもなんですが、新聞記者時代にそれなりに修羅場をくぐってきた私にとっては十分、許容範囲内です。「あ~、そういうことなんだ」で片付けた私に対し、「あれ、もっと驚かないの?」と逆に彼女のほうが驚いていました。

もちろん驚きましたが、かつてニューハーフの経営者にインタビューしたことがありましたし、トランスジェンダーの問題を扱ったこともありました。理解はあるほうだと思いますし、少なくとも偏見など持っていません。

それ以来、彼女とは親友と言ってもよいぐらいの付き合いです。っていうか、彼女のほうが私に懐いている感じです。口には出しませんが、これまで偏見で悩んできたのではないでしょうか。

念のために繰り返しますが、彼女とは何もありません。正直言って、理性が吹っ飛びそうになったことはあります。上半身だけ見れば、北川景子が下着姿で目の前で眠っているのですから。しかし、不自然に膨らむ股間を見ると我に返ります。

「ずずずくん、こんなに良い人なのに、何で彼女できないんだろうね?」― 会うたびに言われます。だーかーらー、ブサイクだからなの、何度も言わせんな。とりあえず、お客さんとアフターで朝になったからってうちに来るのはやめろ。

これも私のことを信用しているからであって、誰かに信用されるということは悪いものではありません。彼女はいま、ネイルサロンを開くためにがんばっています。苦労してがんばっている人に対しては無条件で応援するのが私の信条です。

「ずずずく~ん、水~」― ソファからうめき声が聞こえてきました。ここだけ見ると、ラブラブカップルのようですが、私にラブラブな日が訪れるのはいつになることやら。