電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

ある中小企業の倒産

『下町ロケット』はドラマです。

実際の中小企業は日々の資金繰りに追われ、景気のちょっとした波に右往左往し、発注先の顔色を常にうかがっています。

高い技術力を誇り、高品質の製品を作り続ければ必ず報われるということなどありません。真摯に努力してもダメなときはダメです。

『下町ロケット』の特別版を2日に見てスカッとした人は多いはずですし、私もその1人です。しかし、実は冷めた気持ちで見ていました。

新聞記者時代に東京都大田区の中小企業を取材しました。スイッチング電源を製造・販売する老舗のメーカーでした。

海外に生産拠点を設けていたり、ジャスダックに上場していたり、社員も100人弱を数え、中小企業というより中堅企業でした。

しかし、社長はおごり高ぶることなく、技術力と製品品質の向上を追求する町工場の職人で、まさに阿部寛が演じた役柄のようでした。

私が書いた記事をいたく気に入ってくれ、その後も何度も連絡をもらい、サシで飲みにいくなど、年齢や立場を超えた付き合いが続いていました。

新聞社を辞めることを報告しにいったときは、何でもっと早く言わなかったんだ、と怒りつつ、ビックリする額の餞別をくれました。

転職してからは私の勤務地が都内になったことに加え、会社の経営が悪化したこともあり、年賀状のやり取りぐらいになってしまいました。

その間、債務超過や上場廃止、役員のインサイダー取引など、耳に入ってくるのは悪い話ばかりで、とても心配していました。

そして、つい1週間ほど前の12月28日、50億円の負債を抱えての自己破産申請と破産手続き開始の決定を知りました。

www.tdb.co.jp きょう、たまたま近くまで行く予定があり、帰りに少し遠回りして会社を見てきました。以前と変わらず、単に年末年始休暇中のようでした。

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しかし、門に貼られた破産管財人による告示書を見て、倒産が現実であることに気付かされます。月曜日に門が開くことはありません。

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会社は多摩川の堤防脇にあり、羽田空港に発着する飛行機を眺めながら、夕方に2人でタバコをふかしたことを思い出します。

製品技術についてちんぷんかんぷんな私に、ぶっきらぼうだけど諦めずに教えてくれた工場長ともタバコをふかしたなあ。俺の娘を嫁にどうだい?なんて言ってたおじさんもいたっけ。

中小企業の倒産など日常茶飯事です。今回の倒産も関係者以外には知られず、少し時間が経てばすぐに忘れられてしまうでしょう。

私もきっとすぐに忘れるはずです。きれい事を言うつもりはありません。私は自分のことだけでいっぱいいっぱいです。

ただ、こうして書くことによって、忘れるまでの時間を少しでも延ばしたいと思っています。私なりのせめてもの礼儀です。