電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

ガンジス川の恋人は幻

「確かに人手は足りてないけど、編集なんか他国のオフィスから来てもらっても無理だろうから、現地で採用するって言ってたよ」

ニューデリーオフィスにいる元同僚に問い合わせてくれていたイギリス人の同僚から聞きました。当たり前といえば当たり前です。

現地の言語を理解していない人間が書籍など制作できるわけがありません。私がインドに行ったところで何の役にも立たないのです。

やれやれ、人騒がせな…と胸をなで下ろしかけたところで「ただ、ちょっと気になる話もあって…」と彼が言い淀みました。

「実作業は無理でも全体の進行管理なら英語さえできればいいし、何事にもルーズなインド人には日本人の几帳面さが必要かもしれないって言ってた」

……

………

…………まずい。

書籍制作の経験が豊富で全体の流れをよく理解し、かつ納期に対する意識が高く、さらにある程度のマネージングができるぐらいの年齢…私です。

自分で言うのもなんですが、条件に合致します。ニューデリーオフィスは若手が多いそうで、年齢が近い私のほうがベテランより良いはずです。

ダイレクターはこのポジションに私を当てることを狙っているのかもしれません。これなら私でもできる、むしろ私が適任です。

「でも東京オフィスだって決して人が足りているわけじゃないし、ずずずが抜けた分を埋められる人はすぐに見つからないだろうから大丈夫だよ」

そう、東京オフィスも昨年のリストラで人が減っています。人が足りていないぐらいですから、ダイレクターの私情だけで私を放出することはできないはずです。

ただ、下手に刺激するのが得策でないことは確かですので、やはり熱くならず、自棄にならず、感情をフラットに保ちます。ガンジーの精神です。

ガンジス川の恋人は幻であってほしいです。