電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

編集者

「御社だから受けたのにどういうことですか?」

書籍出版事業の廃止と他社への版権委譲の説明をしにいった著者に詰め寄られました。私は「大変申し訳ありません」と頭を下げるしかありません。

出版業界について改めて説明しておきましょう。

“本を出す”というと、例えば村上春樹氏のような小説家を思い浮かべる人が多いと思いますが、そうであるとは限りません。

書店に行くと料理のレシピ本や観光名所を紹介した本、ファッション誌、釣り雑誌から、プログラミングや有機化学に関する書籍まで、ありとあらゆる紙媒体があります。

そこに記載されている文章をすべて村上春樹氏のような小説家が書いているわけがありません。その分野に精通した人が書いています。

言われてみれば当たり前ですが、この業界に入るまで実は私も理解していませんでした。自著を刊行している“著者”と呼ばれる人はみんな文章のプロなのだ、と思っていました。

しかし、そのようなことはありません。例えばプログラミングに関する知識は豊富でも文章が上手い人は滅多にいません。そして、だからこそ編集者がいるのです。

ある分野に精通した人は往々にして分からない人の気持ちが分かりません。知識が豊富であるがゆえ、読み手も自身と同じ知識量があると思ってしまいがちです。

そこに読み手の視点を持った編集者が入り、「ここは分かりにくいと思いますので、このように書いてみてはいかがでしょうか」といった意見を述べます。

書籍はこの作業を繰り返すことで出来上がります。良い書籍は、著者の知識量や観点が重要であることはもちろんですが、それと同じぐらい編集者の力量がものをいいます。

ある分野についてどれだけ豊富な知識を持っていたとしても、それを他者に上手に伝えられなければ著者として失格です。そうならないよう編集者がサポートするわけです。

長くなりそうなのでいったん切ります。