言葉の力を活かす能力
私はテレビを見ません。新聞記者時代はテレビを見る時間などありませんでしたし、いまは見たいと思う番組がありません。気になるドラマなどはありますが、録画するのが面倒ですし、そこまでして見たいとも思いません。
ただ、仕事で毎日、活字ばかり追っているので、深く考えずにぼーっとしながら動画を見たいと思うこともあります。そこで「Hulu」と「Amazonプライム」の2つの動画配信サービスを契約しています。
「あれを見よう!」と能動的に動画を探すのではなく、あちらから配信される大量の動画の中からそのときの気分で何となく選ぶ、受動的な動画の視聴がとても気楽で心地良かったりします。
家に帰り、今日も何となくHuluを見ていたら『舟を編む』の動画が配信されているのに気付きました。直木賞作家の三浦しをんの小説を松田龍平主演で映画化したものです。
出版社の編集者でありながら、私には辞書編集のことなどまったく分かりません。前々から小説を読もう、映画を見ようと思っていたのですが、ついほかのことに気を取られてしまい、これまで機会がありませんでした。早速、見始めました。
私がふだん制作しているのは専門書です。企画から著者探し、執筆依頼、脱稿、編集・制作、刊行まで通常、1年以上かかります。決して短くはありませんが、10年、20年が当たり前の辞書編集とは比べものになりません。
興味津々で見ていたのですが、主人公の恋物語でもあるとは知りませんでした。そして、ヒロインが宮崎あおいであることも。宮崎あおいと二階堂ふみはそっくりだとネットで話題になっています。変なところでふみちゃんを思い出してしまいました。
話は変わり、いまプロの作曲家として活躍している学生時代の後輩に歌詞を書いてほしいと頼まれています。この後輩、表に出るわけではないので知られていませんが、業界では引っ張りだこの売れっ子です。
全盛を誇るアイドルグループに曲を提供していますし、サビを聞けば誰もが分かるような曲を作りもしました。ただ最近、少し煮詰まっているそうで、ヒントになるようなものでも構わないから何かほしいと頼まれました。
「ずずずさんのメロディセンスは学生時代から良いものがありましたから、ついでに曲まで書いてもらってもいいっすよ」とまで言われています。気の置けない、とてもかわいい後輩です。
今回は元気いっぱいのアイドルグループではなく、その中である程度の年齢と経験を重ねたメンバーのソロ曲で、元気や若さの中にも大人の雰囲気を出したいと求められているそうです。例えて言うなら、竹内まりやの『純愛ラプソディ』みたいに。
あなたとの出会いの日を境にして
すべてが輝き始めて想いは募るばかり
愛し方何ひとつ知らないままで
飛び込んだぬくもりは他の誰かのものだけど
いままで歌詞をきちんと読んだことはありませんでしたが、ふみちゃんに対する私の気持ちそのままでした。ふみちゃんと会うようになってからすべてが輝き始めて想いは募るばかりでした。
ふみちゃんに会いたい、目がなくなる笑顔を見たい、とにかくもう一度だけでよいから。
私は言葉の世界で生きる言葉のプロです。しかし、ふみちゃんに気持ちを伝える言葉が見つかりませんでした。言葉に力がないのではありません。言葉の力を活かす能力が私になかったのです。
肝心なところで言葉の魅力を引き出せない。これでは編集者といえません。言葉と真摯に向き合う姿勢が足りないのかな。