時限爆弾
私の退職で揉めているようです。
別に私が何か悪いことをしたわけではありません。私がこれまで1人でやっていた制作案件の大変さがようやく認識され、引き継げるスタッフがいないことが問題となっているようです。
私がやっていたことは、あるジャンルの専門家たちにインタビューし、大量の原稿を書き、DTPに指示を出してゲラにして校了まで持っていき、印刷会社に入稿するまでの一連の作業です。
まず、インタビューについて。専門家ですから、こちらもそれなりの知識がないと会話が成り立ちませんし、ネタになるようなことを聞き出せません。
しかも、大きな枠組みでは1つのジャンルの専門家ですが、それがさらに細分化されています。大きな枠組みで括れても細分化するとトレンドや今後の見通しが微妙に異なるため、それらをすべて理解していなければなりません。
もちろん、これ以外に会話のキャッチボールを成立させる基本的な会話スキルや当意即妙の返しができるような慣れが求められます。数をこなすことで身につくため、実はこれが最も難しいかもしれません。
次に原稿の執筆ですが、これも勉強といかに数をこなしてきたかで身につくものです。これに加えて締め切りがあるため速く書くことも求められます。
DTPへの指示出しや印刷会社への入稿は編集経験者であればそれほど難しいことはありません。正確性のほかにここでも速さを求められることがありますが、それは編集経験者であれば何とでもなります。
要はインタビューと原稿執筆であり、これを高いクオリティを保ちつつワンストップでこなせるスタッフが社内にも社外にもおらず、問題となっているようです。
自分で言うのもなんですが、はっきり言っていないと思います。探せばいるかもしれませんが、依頼料が高かったり、執筆が遅かったり、何らかの障壁があるはずです。
紙媒体のことは社内ですっかり忘れられ、見向きもされていません。私が退職することになって初めてこの存在を知り、よく調べたら大変な作業量だと気付いたわけです。
しかも、この案件は毎回、かなりの売り上げを立てています。この業界でそれなりのポジションを確立し、安定した高収益を見込めるコンテンツに成長したため、会社としても継続していきたいようです。
だが、知らん。
そもそも、短期間で引き継げるようなものではありません。私も上手なやり方を把握するまでに1年以上かかりました。もう少し気にしてくれていたら私も後任を育てることができたのですが。
私にしかできないことを作り上げてしまったという点では悪いことをしてしまいましたが、誰も見向きもしなかったという点を差し引けばプラスマイナスゼロです。
私がどのようにやっていたかをまとめた資料は作りましたが、それを読んだだけではできません。私は時限爆弾をセットしてしまったのかもしれません。