古巣からの復帰要請
「またうちに戻ってくるつもりはないか?」― 古巣の新聞社から連絡がありました。復帰要請はこれまで何度もありましたが、元同期や社歴が近い先輩、後輩からばかりでした。
しかし、今回は少し違います。次期社長に内定したと目されている重役からです。数年前に辞めた単なる現場の記者にそのような人がなぜ直接、連絡してくるのか。
新聞記者は事実をまず疑ってかかるのが鉄則です。長年の記者生活で身体に染みついた習性はそう簡単に消えず、もしかしたら何か裏があるかもしれないと思い、当たり前ですが返事は保留しました。
実は今夜、ちょうど元同期と飲むことになっていたのです。ビールで喉を潤してから早速聞いてみたところ、元同期曰く「やっぱりお前のところにもきたか」とのことでした。
次期社長に内定したというのはどうやら本当のようで、経営を建て直すためには本業に真摯に向き合うべきであるという考えの下、辞めていった優秀な記者に声をかけているそうです。
私と同時期に辞めざるをえない状況に追い込まれた人々にも当然、連絡がいっているようで、私を記者として育ててくれた元上司にも声がかかっているようです。
その重役がまだ現場の記者だったころを知っていますが、職人気質の記者というより上昇志向の強いビジネスマンというイメージでした。次期社長にまで上り詰めるのも納得です。
ただ、真摯に紙面作りに取り組もうという姿勢は意外です。本業とはまったく関係ない新規事業を立ち上げ、金儲けに勤しむとばかり思っていました。
元記者である私が言うのもなんですが、紙の新聞に未来はありません。すべてなくなることは決してありませんが、廃刊に追い込まれる新聞社も出てくるはずです。
そんなことはその重役も当然分かっているはずで、やはり何か裏があるのではないかと疑ってしまいます。そもそも、私は戻るつもりなどありませんが。
元上司をはじめ辞めていった人たちはみんな他社で活躍しています。賞を取った人もいますし、いまの会社が手放すと思えません。とりあえず元上司には明日、聞いてみようと思っています。
ところで今夜は肉を食らってきました。お互いに食べるより飲むほうなのでそれほど量を食べたわけではありませんが、どれも美味しゅうございました。
いまでこそ安いチェーン店が増えましたが、私が子どものころは焼肉というと年に1回のごちそうでした。部位もカルビやロースなどばかりで、ホルモンなどほとんどなかった記憶があります。
今夜のお店は古巣の新聞社御用達で、はっきり言ってキレイなお店ではありませんが、肉問屋が経営しているので美味しい肉を格安で食べられます。
ただ、そうは言ってもそれなりの金額になるわけで、好きなときに焼肉が食べられるようになったときには我ながら大人になったと実感しました。そして、こうした生活が送れていることはとても幸せなことなのかもしれません。