電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

世の中は上手くいかない

「あっ、ずずずくん、お帰り」
「あら、ずずずさん、お帰りなさい」

……

………

…………マテ!

帰ってきたらマンションのエントランスで景子さんとオーナーさんが談笑していました。いつの間にそんなに仲良くなっていたのか分かりません。

「ずずずさんもいい歳なんだから結婚して子ども作りなさいよ。ずずずさんの子どもなら私にとっても孫みたいなものよ。こんなに美人の彼女がいるのに何で結婚しないのよ」

オーナーさん、申し訳ありませんが“彼女”ではありませんし、子どもは産めません。景子さんは超絶美人ですが、男なのです。

オーナーさんは景子さんが男であることを知りませんし、悪意などみじんもありません。景子さんと私が結婚して幸せな家庭を築くことを純粋に願っているだけです。

しかし、景子さんの顔が一瞬、曇りました。オーナーさん以外でもこのテのやり取りは何度もあったのですぐに分かります。

「きょうは帰るね」― てっきり泊まっていくのかと思っていたら、景子さんは晩ごはんだけ作って帰りました。

景子さんは私に片想い、私はふみちゃんに片想い、世の中は本当に上手くいきません。