電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

白いネイル

「ずずず、おはよう!朝から何でそんなに思い詰めた顔してるんだ?」

だから力の加減というものを覚えてくれないだろうか、ボブ。君にとっては軽く肩に手を置いただけなのだろうけど、こちらにとっては重い物が降ってきたぐらいなのだから。

コーヒースペースからふみちゃんを眺めていたところボブに捕まりました。端から見るといますぐにでも窓から飛び降りそうな思い詰めた雰囲気を漂わせているそうです。

先週は京急の遅れが頻発していたので、ふみちゃんに会えたのは久しぶりのような気がしています。いつもの同僚と2人でした。

ふみちゃんは初夏らしい爽やかな服装でキラキラしていました。手振りを交えて同僚に楽しそうに話しかけており、そのときに目に入る白いネイルが印象的でした。

ふみちゃんに会えたら会えたで存在の遠さを思い知らされ、つらくなります。あんなにキラキラした女の子とこんなブサイクが釣り合うわけがありません。

「昨日、奥さんとSkypeで話したんだけど、ずずずのことを心配していたよ。あんなに優しい人がまだ結婚してないだなんて信じられないって」

日本にいるとあまり感じませんが、米国ではいまだに人種差別意識が根強く残っています。ボブやボブの奥さんは黒人ということで長年にわたって差別を受けてきました。

ちなみに、日本人も黄色人種ということで差別を受けます。場所によっては黒人に対する差別よりも激しく、理由のない憎悪をぶつけられます。

ボブ夫妻を自宅に招き、私が料理を作りつつ、奥さんに和食を教えたことがありました。自分にとっては当たり前のことですが、ごく普通に接したことに驚いたそうです。

そんなに優しくしたつもりはないのですが、ホームシックになりかけていたときだったことも相まって、とても嬉しかったそうです。

「悩みがあるなら何でも相談してくれよ」と言ってくれましたが、ふみちゃんのことだけは言えません。上手に説明する自信もありませんし。

ふみちゃんに目がなくなる笑顔を向けてもらえるようなことはなく、このままずっと片想いです。仕方ありません、ブサイクですから。

お昼ごはんを食べる前までに再追加の原稿を1本書き上げます。今日のお昼ごはんは何を食べようか。