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電車の中の恋人

通勤電車で一緒になる女性に恋して散ったブサメンの日常

指名

「ずずずさんに編集をお願いできませんか?」

帰り際にメールが1通、届きました。私が以前、企画から編集、刊行後のプロモーションまで担当した書籍の著者からです。

いまだから言えますが、その書籍は賭けでした。注目を集めている分野であることは確かであったものの、需要がイマイチ明確ではありませんでした。

マーケティングにいつもより少し時間をかけて全国の主要書店の動向を調査してもらったのですが、五分五分という結果が出ました。

ただ、それまで共著で刊行した書籍はあったものの、初めて1人で書く書籍ということもあり、著者はとても真剣に取り組んでくれました。

「ひとまず1章、書いてみました」と言って送ってくれた原稿は細部にまで目が行き届いていました。それを読んで、少し無理をして稟議を通しました。

刊行直後はまったく売れませんでした。営業とタイアップして書籍付きセミナーなどを企画しましたが、定員30人のところに4人しか応募がなかったこともありました。

それでも地道に販促を続けた結果、刊行から1年後にアマゾンのある分野で1位になりました。その分野ではいまだに5位以内をキープしています。

影響力がある大御所にも「これまでありそうでなかった、誰もが欲しいと思っていたところを書いてくれた良書」と紹介してもらいました。

現時点で1度、改訂していますが、これから改訂を重ねていけば、その分野について定番の1冊となることは間違いないと思います。

著者と私、お互いが信頼しあい、良い結果につながりました。書籍編集者になって良かったとしみじみ思いました。もし、子どもがいたら自信をもって誇れる仕事です。

子どもを作るにはまず相手…PCのモニターが涙でかすんで見えますが、気にしない。

著者にはその後、他社から執筆依頼が集まりました。自転車操業ばかりの出版業界において、二匹目のドジョウを狙うのは常道と言っても過言ではありません。

そして著者はある1社の企画を受けたのですが、担当編集に不満があるということで私に連絡してきたわけです。

結論から言うと、私が担当編集になることは無理です。その書籍はその出版社の編集者が企画したものですから、私が横から口を出すなど御法度です。

出版業界は狭い世界で、その版元の担当編集の名前を聞いたところ、知り合いでした。彼は編集者としてデキる部類です。

私が担当したときは、通常より力が入っていたと思います。それを当たり前と著者に思わせてしまったことに対しては少し責任を感じます。

いまの担当編集を知っていること、彼は能力があること、不満は正直に伝えたほうが良いこと…などを著者に伝えました。

それと同時に優越感を覚えたことは事実です。「彼より私のほうが良いと思ってくれたんだ」というゲスな考えではありますが、仕事ぶりを誰かに評価されることは嬉しいものです。

仕事ができる男に惹かれる女子がいないかと思うのですが、少なくとも私の周りにはいないようです。ふみちゃんは、仕事ができてもブサイクには興味ないのだろうか。

仕事しか誇れるものがない男って何だかなあ…と思うのですが、仕方ありません、いまの私にはこれしかないのですから。

「1冊でも良書が世に出る」― これ以上のことを望むのは贅沢なのかもしれません。