電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

敗戦処理

「申し訳ありません。そちらのタイトルは現在、在庫切れの状態でして、重版の予定もありませんので、いつ出荷できるか未定となっております」

私の席のすぐ近くに、書籍の在庫管理や書店からの問い合わせを担当しているスタッフがいます。元々は4人のチームだったのですが、このうち3人は昨年末で解雇され、いまは1人だけです。

弊社が書籍出版事業を廃止したことはまだ公表されていません。いま市場で流通しているものの返品を待ちつつ時機を見て回収し、公表するようです。

月刊誌が残っているのでこのスタッフの仕事はあるのですが、毎月決まったことなので特にバタバタするようなことはなく、私と同じように書籍の敗戦処理がメインになっています。

日本の書籍のほとんどは“委託販売”という独自の形をとっています。これは書店が版元や取次から預かって販売する代わりに、一定期間が過ぎても売れなかった書籍を返品できるというシステムです。

日本の書籍販売における独自システムにはもう1つ“再販売価格維持制度”があります。返品された書籍を再び販売する際に中古として割り引きせず、刊行時と同じ価格を維持するというものです。

日本の書籍にカバーがついているのは再販制度があるからです。返品されても中身は新品なので、他の書籍などと接しているカバーを差し替えて再販するのです。

ペーパーバックなど洋書にカバーがないのは、外国には再販制度がないからです。この辺については書き始めると長くなるのでまたそのうち。

在庫がなく、重版の予定がないタイトルに注文が入った場合、返品されたもので対応することになります。しかし、返品はいつあるか分からないため、いつ出荷できるか未定となるわけです。

先ほど問い合わせがあったタイトルについて聞いてみたら、私が企画・制作したものでした。昨年末までは倉庫に在庫があったのですが、すべて断裁されてしまいました。

売れているので書店から在庫確認があったわけで、読みたいと思ってくれる人がいるにもかかわらず売れないというのは担当編集にとってとても辛いことです。

新刊の発行をやめても、全国に流通している書籍はまだたくさんあるため、少なくとも今年いっぱいは何度もこのような思いをすることになりそうです。