電車の中の恋人

通勤電車で一緒になる女性に恋して散ったブサメンの日常

セクショナリズム

広告営業チームの仕事をここまで手伝ったことは褒められるどころかダイレクターに怒られることです。これは本来、私の業務ではなく、外資系の考え方に基づけば最もやってはいけないことの1つです。

外資系企業への入社は「就職」です。社員は1つの分野のスペシャリストであることを求められ、その分野だけで成果を出せばよいのです。私の場合、書籍の企画から編集、制作であり、それ以外は求められません。

その分、自身がやるべき業務に対する責任はとても大きくなります。売上目標を達成できるような書籍を企画し、年間計画どおりに事故なく刊行していくことに対して、尋常でないプレッシャーをかけられます。

書籍出版事業からの完全撤退に伴ってクビ宣告を受けたのもこの考え方に基づくものです。私と会社が交わした業務に関する契約は書籍の出版であって、その業務がなくなるわけですから“私の居場所がない=クビ”となるのです。

日系企業への入社は「就社」です。自身に与えられた仕事だけをやっていればよいというわけではなく、編集者として入ったのに営業をやり、経理をやり、総務をやり、人事をやり…というのが当たり前です。

日系では、自身が属する部や課のことに意見を言い、ほかの部や課の業務を手伝ったりすることも珍しくありませんし、会社としてもそのような姿勢を良しとする風潮があると思います。

しかし、外資系ではそんなことを求められていません。求められているのは、自身に与えられた仕事を完ぺきにこなしていかに成果を上げたか、につきます。ボスに指示されたことだけを完遂すればよく、それ以外をやることはNGなのです。

6月と9月、そして先週始まったばかりの広告営業チームの3案件は、編集部と営業部のダイレクター同士で協議し、私が担当することで話がついています。ただ、先ほど入稿した案件については私のダイレクターに話がいっていません。

私のダイレクターとしては「自身の貴重なリソースを別の仕事で消耗させられた」と思うでしょうし、営業部のダイレクターは「そっちが勝手にやったことだ」と思うでしょう。

そして、現場の人間が困っていたからとはいえ、ダイレクターからの指示ではなく私が勝手にやったことなのです。外資系においてボスの命令は絶対です。その命令に背いたと言っても過言ではありません。怒られるだけでなく評価が下がるでしょう。

これはいわゆる「派閥」「社内政治」「セクショナリズム」とは違います。外資系と日系、働き方や仕事に対する考え方が根本的に違うのです。日本人にはなかなか理解できないと思いますが、外国人であれば「当たり前じゃん」で済むはずです。

文字どおり1分1秒を争う事態だった今日のような場面でダイレクターにいちいち許可をもらうことなどできませんし、失敗したら出稿してくれたクライアントの信用を失い、会社に大損害を与えかねない状況で手を出さないわけにはいきません。

しかし、クライアントの信用を失うことや会社に大損害を与えることは広告営業チームが考えるべきことであり、私の業務ではないのです。その結果、会社がなくなったとしても、です。会社がなくなればとっとと次に移ればよいと考えるのが外国人です。

広告営業チームには、私が今日、こんなに手伝ったことは絶対に秘密にするように言ってあります。多少手伝ったことは言わざるをえないと思いますが、在宅勤務でバタバタしていたのが見えなかったのは不幸中の幸いです。

広告営業チームに最近入った若い女の子が天然ちゃんで、この辺の事情を知らずに私のデスクに来て「ずずずさん、昨日はいっぱいありがとうございました!」とか言いそうなのが怖い。明日も在宅勤務にしようかな。