電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

秋の風

あのときアクションなど起こさなかったら、いまでも毎朝、ふみちゃんを見ていられたのかなあ ― 裏口でタバコを吸っていると、ふみちゃんが働いていると思われるオフィスビルがすぐ近くに見えます。

私にばったり遭遇するのが嫌で電車の時間を変えたりしていないか、駅から職場まで遠回りしていたりしないか、とにかくふみちゃんが不都合を感じていないことだけが望みです。それだけでも知りたいのですが、それはできません。

何であんなことをしてしまったのか、何もしなければいまでもそれまでと同じようにふみちゃんに会えていただろうに、毎日、後悔しています。ふみちゃんにも申し訳ない気持ちでいっぱいです。高嶺の花など望むべきではありませんでした。

今日の都内は秋の風です。昨日までとは明らかに空気が変わりました。半袖のポロシャツを着ているのですが、風がひんやりと感じられる瞬間もあります。ふと気付けば、明日からもう10月ではないですか。

午前中、8月末で退職した同僚から引き継いだ書籍の見本が納品されました。私が引き継いだのは念校作成から索引作り、印刷会社への入稿作業ぐらいですが、それでも見本を手に取ると感無量です。

それまで単なる画面上のデータでしかなかったものが手に取れる形になることの喜びは編集者の特権です。この瞬間があるからこそ、地味で疲れる編集・校正作業にも耐えられます。

いまの私の心の支えは仕事のみです。あとはふみちゃんが元気でいてくれさえすればそれだけで十分です。