電車の中の恋人

酒とタバコと電気ベースと料理とキャリア…まあいろいろ

電光石火

先ほど、私と後輩の2人で、某中堅出版社で副編集長をしている私の学生時代の先輩に会ってきました。横から見ている限り、先輩と後輩は話が弾み、好感触だったのではないかと感じました。週明けの25日(月)に先輩の上司である編集長との面接まで決まりました。

今日の午前中、後輩はいるはずだと思っていたのですが出社せず、私が外出から戻ってきた15時過ぎにデスクにいました。話を聞くと、転職エージェントに会ってきたそうです。ひとまず、すぐに自分で動き始めるのは良いことです。

コーヒースペースに移動して、初めて先輩の話をしました。驚きつつも、ぜひ面接を受けたいということだったので、その場で先輩に電話したところ、先輩は私のオフィスからそれほど遠くない場所まで著者との打ち合わせに来ていました。

「これから約1時間、打ち合わせだけど、終わったら今日は直帰する予定だったから、そっちが大丈夫なら後で会おうか。こういうことは少しでも早いほうが良いだろう」

せ、先輩(涙)

後輩は私が戻る前、人事に「出社しても仕事がない」「早くサインしないと条件は悪くなる一方だ」とまた詰められていたそうで、早めに帰っても誰も何も言いません。私は帰ってから自宅で仕事を再開すればよいだけです。2人ですぐにオフィスを出ました。

先輩は知る人ぞ知る編集者です。刊行する書籍は常に一定の売り上げを保ち、それに関するイベントを自ら主催するなど、かなりアクティブに動き回る編集者です。学生時代からずっと好奇心旺盛で、興味を持ったことを徹底的に追求します。

さらに博識で「この人が知らないことってあるのだろうか?」といつも思わされます。私は先輩をタモリみたいな人だと思っています。「タモリ倶楽部」や「ブラタモリ」を継げるのは日本全国を探しても先輩ぐらいではないかと。

つまり、ものすごく忙しい人なのです。常に4~5冊のタイトルを動かし、並行して新しい書籍やイベントの企画を考え、出世コースに乗っているので社内での雑務も多く、電話してすぐに時間をもらえるというのはとてもありがたいことなのです。

この先輩にこれぐらい信頼してもらえるのは、自分でいうのも何ですが私の人徳かとちょっぴり自慢したいところです。

とはいえ、忙しい人なので与えられた時間は30分。「久しぶりだなあ」「ご無沙汰しています」と挨拶もそこそこにしてスタバで即席の面接です。さすが、できる人は一瞬で仕事モードに切り替わります。顔は笑っているのに目は笑っていません。

「これまで担当した書籍は」「なぜそこに目をつけて企画を立てたのか」「ふだん、どうやって企画を立てているか」「その書籍は売れたのか、売れなかったのか。売れた理由と売れなかった理由は何だと思うか」「編集という仕事をひと言で表すと」― 矢継ぎ早に質問が飛びます。

当たり前のことですが、その人間に対して年間、数百万円を支払えるかどうかを判断するわけですから、採用する側は真剣です。ただ、後輩には「オレの先輩だし、オレも一緒に行くけど、仕事に対して甘い人ではないから、本当の面接だと思って対応しろ」と事前に伝えておいたので、言葉を選びながら、ゆっくり丁寧に答えていました。

一通りの質問が終わった後、先輩がおもむろに電話をかけました。電話の相手は上司である編集長で、週明けの正式な面接をその場で即決しました。「そのときまでに履歴書と職務経歴書、これまでの実績などを用意するように」― できる人はすべてが速い。その後、少しサークルのメンバーの近況などを噂しあい、別れました。

後輩を見ると、私の先輩にすっかり心酔してしまったようです。確かにその気持ちは分かりますし、私も先輩と一緒に仕事をしてみたいと思います。

ただ、先輩は少しロリコンの気があり、いまの奥さんは先輩が大学3年生のときにバイトで家庭教師をやっていた中学1年生の教え子ということを知っている私としては「そこまですごい人じゃないぞ…」と心の中で思っていました。後輩には言えないけど。

「ずずずさん、飲みに行きましょう!」と後輩が言いましたが、「いや待て、まず奥さん(=産休中の弊社社員)に伝えて相談するのが先だし、一刻も早く書類などを用意しろ」と言って帰ってきました。舞い上がっているみたいだけど、大丈夫かな、アイツ。

ひとまず、お膳立てまではできました。あとはこのチャンスを後輩がものにできるかどうかで、私の役目は終わりです。とはいえ、やさぐれた気持ちをほんの少し、解きほぐしてくれる良い場面に遭遇できたと思っています。